
「お金がないから、腎臓いっこ売っちゃおうかな」
現代日本人的には「え?」というセリフだが、それは、ついこのあいだ、なんてことはないチャットでの会話。
相手は、フィリピンの女子高生。
べつにヤバいことしてるとかギャングとかではない。
ごくふつうの、ただ、お金に困ってる貧困層というだけ。
NGOで支援しているフィリピン・セブ島のスラムに住み、その支援で公立高校に通っている、ほんとにふつうのかわいい女子高生。
現地的にいうなら、Grade12、またはハイスクール6学年(フィリピンの小中高校は、6・4・2制で、エレメンタリー6年にハイスクール6年。で、ハイスクールはジュニアハイ4年にシニアハイ2年なんだけど、ハイスクール終了まで義務教育で、小学校からの12年間を続けて年次に数えるのが一般的。)、日本的に言えば高校3年生。
そんな、なんてことのない女子高生が、会話の中で、なんてこともなく「臓器売買」を口にする。
「もうすぐ卒業なんだ。でさ、卒業パーティーがあるんだけど、お金がなくてドレスが買えないの。」
「あーあ、、腎臓でも売っちゃおうかな」
大マジではなくて、どこか冗談めいた口調ではあったけど、彼女の、ティーンエージャーの女子なりの悲嘆が伝わってきた。
ドレスって言ったって、そんな豪華なものが必要なわけじゃないけど、いつものTシャツにビーサンはやっぱり嫌。揃えたってマーケットや古着屋で買えば1000円もかからないけど、一生に一度のイベントだけど、でも、そのお金がない。
それが現実。
たぶん、親戚や近所とかから借りるんだと思うけど、やっぱり着たいよね、自分好みのきれいなドレスを、、😢
それは、ここスラムでは、どこにでも転がってる、ありふれた話。
そして、改めて思った。
臓器売買なんていう、日本で言ったらめっちゃ闇の話が、
やはりここスラムでは、とても身近にあるということ。
女子高生がお金を得る選択肢として、何気に思いつくくらいに。
ほんとに、
やりきれない、でもあきらかにそこにある悲しい現実。
また、貧困と共に、その要因としてあげられるのは、
フィリピンでは臓器売買が政府から公認(もしくは黙認)されているということ。
その臓器売買と直接つながるのが、臓器移植である。
そして、その流れの中で、日本と違う大きな点は、臓器売買から臓器斡旋のブローカーが存在し、市場原理が働いていることである。
フィリピンでは年間数百件件におよぶ腎臓移植が 行われており、その大半を占めるのが「生体腎移植」で ある。そしてその約8割が「非血縁者間腎移植」であり、また、外国人レシピエント(臓器提供を受ける人)がその多くを占めている。
そう、フィリピンは世界的な臓器移植のメッカであり、執刀を重ね経験値を上げたドクターの移植技術は高く、また、安価である。臓器提供数はインドと並び世界トップであり、人口を考えると実質的に1位である。
数年前の調査(あくまでも自分の知る限りのもの)なので、今はもっと高価になっているだろうが、外国人が腎臓移植手術の値段は約700万(円)、フィリピン人200万、腎臓30万、ちなみに先進国保険なし手術代1600~2000万、日本国内では、医療保険その他の制度適用でだいぶ安くはなるがそもそも血縁者間移植が主な日本、ドナー待ちの長い列や制度の煩雑さに世論も相まって、臓器移植手術そのものが受けること難しい。
ちなみに、公的な臓器売買だったら、ドナーへの術後経過に対する報酬もあるようだが、闇ブローカーによる貧困層からの売買にはそんなものは存在しない。腎臓の場合、ひとつ5~30万(状況やドナーの生活水準によって大きく異なる)その場で支払って、サクッと売買成立だ。
フィリピンでの臓器売買について認識はこのようなものである。臓器売買は合法化され、死刑囚からの臓器売買も行われており、特に政府は反対していないようだ。
例えば日本の有名なプロレスラーであるジャンボ鶴田さんも、フィリピンで肝臓移植手術を受けた。日本は論外として、オーストラリア等でも手術の可能性を探ったが、なかなかドナーが見つからず、肝臓癌が既に進行しており、手術に急を要する状態だったこともあり、結局、フィリピンで手術を受けることになった。しかし、残念ながら、手術中の大量出血でお亡くなりになられた。(手術の失敗ではなく、癌が既に血管に転移していたためだと言われている。)
ここで勘違いしてはいけないのは、移植手術自体はもちろん合法(日本でだって)であり、そこに費用が生じるのも当たり前だ。重病になって大金を払って臓器移植を受けるのは別に悪いことではない。
ただ、そこに、闇ブローカーが介在し、臓器売買を公然と行っていることによって裏社会的でネガティブな問題が生じる。
お金のために安易に腎臓を売り、それはその後の人生に何らかの悪影響をも与える可能性もある。貧困層の足元を見た低価格での取引で、もちろんその後の保障もない。
また、たとえそのようなものでも、ドナーが望んだ積極的な臓器売買ならまだしも、中にも人身売買が絡むことだってある。
日本では移植手術に際し、脳死判定が問題になっている。
しかし、フィリピンでは、「生体肝移植」が主で、ようするに、生きた人間の臓器の売買によって、どこかのお金持ちへ「非血縁者間腎移植」が行われるのである。
日本ではまず手に入らない子どもの臓器だって、もし、オファーがあれば、フィリピンでは手に入る。貧乏人の子どもの臓器を親が売ることだってある。家族がその日を生きていくために。
臓器売買が身近にあるフィリピン。
とある海辺の小さなスラムのおいちゃんが言う。
「ああ、この船はおいらの腎臓で買ったんだよ。体調?べつにたいして変わりはないかな。疲れやすくなった気はするが、年のせいだろうし。」
また、同様に腎臓を8万ペソ(日本円で現在20万円程度)で売った港湾労働者は、そのお金をテレビ購入と住宅修理などに使った。
「家にはテレビがなく、娘2人は隣の家のテレビを毎日のぞき見するのが楽しみだった。だが、隣家はある日、扉を閉め切った」
それがドナーになる決意を固めた理由という。
この程度のことなのだ。
貧困に苦しむ人々が世界中にどれだけいるかを考えると、心臓などと異なり、2個ある腎臓の売買を根絶することが、簡単にできるとは思えない。
事件としての臓器売買ではなく、生きるための日常のひとつの手段という現実。
安易な臓器売買、そこには貧困層の生活の苦しさと同時に、無知・教育水準の低さが原因でもある。
もしかしたらフィリピン人の「今が良ければそれでいい」という国民性もあるかもしれない。
そして、子どもの臓器移植の延長線上にある人身売買。
闇臓器ブローカーの存在と当たり前に存在する負の市場原理。
知ってか知らずか、しかし背に腹は代えられず(?)、そのシステムを利用する外国人。
そう、結局、この国を壊しているのは、我々、先進国のエゴなのだ、、
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自分は、国際協力NGO「HOPE~ハロハロオアシス」の代表を務めています。(詳しくは上記「自己紹介・NGO連絡先」リンクをご参照お願い致します。)
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